眠った村と壊れた橋。

レビュー多。

等間隔のベンチ(習作)

 湖のすぐそばに等間隔に置かれた5台のベンチ。石製で新しくはなく、はげていたり欠けていたりしていて、造りはお粗末だ。しかし、座れぬほどではない。その間隔は10メーターほどで、まぁまぁ大きい。首を回して見てみたら、隣のベンチは開いた手のひらより小さい。

 最初、誰もベンチには座っていなかった。その脇を人が通り過ぎることはあっても、誰もそこで立ち止まり、腰掛けようか考える者はいなかった。

 だが、しばらくして、一人の若い男が真ん中のベンチに腰を下ろした。彼は、遠いところからわざわざ歩いて旅してきたらしく、疲れている様子で、座った後、謝意に満ちた表情で両手を腰の両脇に置いている。時々、ペットボトルを口元に持ってゆき、喉を湿らしたりする。

 夕焼けが明るく、空に浮かぶ雲は紫っぽい灰色をしている。

 やがて気分が穏やかになり、喉が潤った所、男は退屈を感じだし、持っていた小型の機械から伸びるイヤホンを耳に装着し、音楽を聴き始めた。そして良き所で目をつむり、その時に流れている楽曲の部分を噛み締めるように聴き入った。

 彼が飲み物を飲んだり音楽を聴いている内、新たな人がやって来て、彼の隣のベンチに腰掛けた。それは若い女だった。彼女は座った途端にバッグを体から外し、中身を探りだし、やがて止めた。何を探していたのかは分からない。その後、彼女はぼんやりした表情で湖を眺めだした。

 男はしばらくして彼女の存在に気づき、一見してすぐ、遠目でおぼろげに見える、その夢うつつな様子に心奪われた。目の大きさも肌の色も分からない、はるか向こうのベンチに腰掛けている女の子が、どんな物思いに耽っているのか、気になった。

 今や別々のベンチに二人っきりになって、男は、縁を感じた。だが、彼らは何の接点も持たない、赤の他人同士でしかなかった。

 男は女の真似をして、湖を眺めだした。ゆらゆらとせわしなく、湖面では細かい波が立っている。距離は離れているが、男と女は一緒に湖を眺めているような観だった。

 その内、空が徐々に暗くなり、冷気が二人の高さに下りてくる。

 寒くなった。辺りには彼ら二人以外の何者もいない。

 女はベンチから立ち上がった。お尻のほこりを払い落とし、バッグを肩から提げ、帰っていく。男の目の前を横切って。

 男は――まだ湖面を眺め続けていた。その眼界が女に遮られた瞬間、彼は、風が彼女とすれ違う形で、湖面を吹き渡り、その上に強い波を立たせるのを目にした。

 女は去り、男は居残った。

 一人ぽっちになった男は、心臓の埋まっている胸の辺りが、どくどく疼くのを感じた。


 男が思いを馳せていたあの、無人になってしまったベンチは、今、月影に皓々と照らされながら、傷んだ姿で、冷たく輝いている。


<了>

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